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第三回「いづれ、翆点になる」

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※写真1 クマグスクのテラスと観音寺本堂の屋根 撮影:増田好郎

こんにちは、京都では約半世紀ぶりに復活した祇園祭の後祭の巡行も終わり、いよいよ8月です。
去年は5月から11月まで小豆島にいたので祇園祭に行けませんでしたが、
京都に来て14年目ともなると、祇園祭がないと夏が来た気がしないですね。
8月生まれの僕は、いつも夏っていうだけでパワーがもらえるような気がしてしまいます。
今年の夏もいろんな意味で熱くなりそう…、笑。

さて、今年の11月開業を目指して準備中のKYOTO ART HOSTEL kumagusuku、
今まさにちょっとした山場を向かえております。

まだ物件の決まる前から事業計画書の作成、資金繰りにはじまり、物件が決まってからも建築プランや工務店選び、次回展覧会の企画などなど…紆余曲折しながらも地道に進めてきました、そのどれもがここ数日でそれなりの局面を迎えております。

引き返せないボーダーラインを越えて、次のフェーズに進もうとしている。
当然、そのうちどれか1つが欠けただけでも、この企画は成り立たないのは分かり切っているので緊張感もなかなかです。正直、本当に絶妙なバランスでここまで来たなと思います。
(この原稿を書いている間に、実は、無事着工に至ることができました。)

それこそ、不安に押しつぶされそうになることも日常茶飯事、自分の未熟さと思慮の浅さを痛感する毎日でした…。

でも、そんな中にも、小さな喜びはあるし、密かな達成感を感じる瞬間もあります。
まあ、ずっと連絡しなきゃと思っているけど何度かタイミング逃して連絡しづらくなっていた相手から、
さらっといい感じのメールが来たとか…そんな些細なことなんですが。

そうした瞬間は必ず、誰かの言葉やちょっとした行ないによってもたらされたものなんです。
少し大げさなんですが、結局困ったときは、必ず人が救ってくれるのです。
といっても、その言葉や行ないは必ずしも、励ましや賞賛というわけではありません。
むしろ、悩ましくて、できれば触れたくない問題を提起し、直視させるものであることも少なくありません。

自分だけではここまでくる事も叶わなかったと思います。
いつも勢いで行動してしまう私を皆が支えて軌道修正してくれるからこそ、私はやって来られたのだと思います。

しかし、まだ、本番はこれからです!

しかも、期間限定ではなくここから最低でも10年間は続けて行きたいと思って望む事業です。
アーティストの脳みそだけ使っていても到底太刀打ちできないことが山ほど待ち受けていることでしょう。
これからも大変だろうなー、でもめちゃくちゃ楽しいだろうなー。
(壮大な妄想を繰り広げる脳内…)

さて、前置きが長くなりましたが、今回は小豆島クマグスク「アート編」です。

他の宿とクマグスクが決定的に違うのは、クマグスクにとってアート(展覧会)は欠かすことのできないすべての物事の中心にあるということです。展覧会を体験する(あえて鑑賞ではなく体験と書きます)ためにクマグスクに来て泊まってもらう。

ただ、快適に一晩泊まるための宿なら京都にはそれこそ無数にあります。タイプも値段も選びたい放題です。
でも、アート体験を目的とした宿は多くはありません。(全国的には最近、少しずつ増えては来ていますが…。)

ここクマグスクはアートを体験する為の宿です。だから、展覧会が重要なのです。

kumagusuku entrance※写真2 クマグスク入口(サインデザインはZZZ design studio) 撮影:増田好郎

kumagusuku 庭※写真3 作庭デザインはZZZ design studio 撮影:増田好郎

kumagusuku gallery※写真4 展覧会場となったお風呂場入口 撮影:増田好郎

kumagusuku ドミトリー※写真5 ドミトリー寝室(サインデザインはZZZ design studio) 撮影:増田好郎

実は、小豆島で初めてクマグスクを開催するとなった時、展覧会について真っ先に相談に行ったのは森美術館のアソシエイトキュレーターの椿玲子さんでした。たまたま、学会か何かで京都に来られていた椿さんを京都駅でつかまえて無理言ってお話させていただいたのを覚えています。

椿さんと僕の最初の出会いは2012年に椿さんが京都で企画された展覧会「隠喩としての宇宙」展でした。
僕はその展覧会に出品作家の1人として参加させていただきました。
その時、椿さんと展覧会のコンセプトや私自身の作品について意見交換する機会があり、こんな面白いキュレーターが森美術館にはいるんだ、と印象に残っていました。

椿さんが関西人だったのも大きいですが、すんなりと深い話まで踏み込めて共感できる懐の大きさのある方だと思います(笑)。初対面で六本木ヒルズの東京を一望できるレストランで宇宙について熱く語り合いました。

いつかまた仕事をご一緒したいなと思っていたので、クマグスク第1弾の展覧会のキュレーションに白羽の矢を立ててしましました。嬉しい事に、快くお引き受けいただき、最終的に企画アドバイザーという立場で出品作家のコーディネートをしていただきました。

そして、出品作家である土屋信子さんに出品をお願いすることになるのですが、実は土屋さんは「隠喩としての宇宙」展にも参加されていました。僕のなかでは、土屋さんはロンドンの作家という印象だったので、オープニングも来られないかと思っていたのですが、その展覧会の少し前に日本に帰国されたとのことで偶然お会いできました。
以前から作品のファンだった僕はオープニングで少しだけ挨拶させていただけて感激したのを覚えています。

展覧会をつくるとき、キュレーターの方に企画に入ってもらうことで、予想外の出会いが生まれます。
私はそれが重要だと思ってやっています。普段のアーティスト繋がりでは出会う事の無い面白いアーティストが世界にはたくさんいます。アーティストだけではありません、デザイナーやインストーラー(展示設営専門のスタッフ)やお客さんだって違います。
新たな扉を開くきかっけになるのです。

土屋さんとの出会いはまさにそういった新しい出会いでした。
共通の知り合いなんて名和晃平さんや飯田高誉さんくらいしかいなかったんじゃないでしょうか。
(名和さんは私の大学の先輩で土屋さんと同じSCAIの所属。)

土屋さんはなんと約2ヶ月間、小豆島で滞在制作をしていただきました。
それは私たちにとって、とても特別な体験でした。

ずっと海外で仕事をされてきた土屋さんの制作を間近でお手伝いできる機会なんてそうそうあるものではありません。
そもそも、土屋さんは世界最高峰の国際展と言われるベネツィアビエンナーレにも出品されたことがある世界的なアーティストです。そんなひとが小豆島のおっちゃんたちと一緒になってお酒を飲んだり、一緒に自炊しながら共同生活をしてたんですから、信じられません…。

これも小豆島という土地柄や瀬戸芸のもたらした機運の成せる技だと思います。

そして、小豆島クマグスクで土屋信子さんの個展「Ace of Heart vol. 7」が開催されました。

お風呂で。

??となる人もいると思います。というか当たり前です。なぜお風呂?ですよね、笑。

今回、開催場所となった場所は観音寺というお寺の境内なのですが、そのお寺の宿坊として使われていた建物に大きなお風呂場があるのです。
なんと、そこが展示室になりました。
ただ展示室になっただけではありません。そこでシャワーを浴びる事もできるのです。

そう、“展覧会を鑑賞しながらシャワーが浴びられる”のです。

これは衝撃です。聞いた事無い。
私も土屋さんに提案されるまで考えても見ませんでした。
だって、「作品濡れますよ!大丈夫ですか!?」と…。
でも、そのアイデアを聞いた瞬間、内心、「これはイケル!」とも思いました。

それこそ、クマグスクでやるべき展覧会だと。

下の写真は展示会場となったお風呂場のビフォー状態です。
岩風呂のある立派なお風呂でした。

kumagusuku ex風呂※写真6 改装前の浴室。床はタイル敷きで壁面は岩になっています。

展覧会を裸になって体験するというのは、実際、体感してみると想像する以上に不思議な体験です。
普段、美術館に行ったときのように腕組みして「ふむふむ」とか言ってられない、ちょっとした異常事態です。
丸裸の自分を逆に作品に見られているような…。

展示空間でシャワーを浴びるわけですが、日常では意識しないシャワーを浴びる際の自分自身の所作が意識化されて展示空間で自身も作品になったような錯覚に襲われます。
この展覧会を体験されたかたの多くが、ここでの体験を嬉々として語ってくれたのも印象的で、
ここでの体験は作品鑑賞という枠を超えて、共鳴を引き起こしたように感じました。

作品は小豆島の廃材を使い、ワックスやラテックス、樹脂といった土屋さんのアイコン的な素材と組み合わせられています。それでは、入口から順を追って紹介したいと思います。入口を入ってすぐの展示室1の壁面には

「私達は、タイムマシンのなかに生きている。」

という文章。
この言葉が導入となって展覧会の世界に誘ってくれます。

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※写真7 展示室1&脱衣所 撮影:増田好郎

奥には脱衣所があり、そこで服を脱いで次の部屋に向かいます。

kumagusuku※写真8 展示室2 撮影:増田好郎

展示室2、真っ白な空間に蛍光灯に照らされた人肌色の物体が現れます。
この時点で既に全裸なので作品との向き合い方に戸惑い逡巡せざるを得ません。
主客が逆転したような奇妙な状態。

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※写真9 展示室2から展示室3を望む 撮影:増田好郎

さらに奥の部屋、展示室3につづきます。
床に塗られた銀色の塗料が近未来感を醸しています。

kumagusuku※写真10 土屋信子「Ace of Heart vol. 7」展示風景 展示室3 撮影:増田好郎

小さくて見づらいですが奥に2つシャワーが設置されています。
ここで皆さんシャワーを浴びます。(最大2名まで)

作品を間近に感じながら、それでも身体を洗うという日常的な行為を行なうわけです。
皆さん、普段より時間をかけてじっくりとシャワーを浴びてらっしゃいました。
鍵も閉めて、監視員もいない完全にプライベートな状態なので、それぞれ思い思いの鑑賞方法でご覧になられていたようです。寝そべって作品と添い寝したり、滝行のようにシャワーを頭から浴びながら瞑想に耽ったり…
(あとから聞くとそれぞれ驚きのオリジナル鑑賞をされていて非常に興味深い!)

という感じで、ざっとご紹介しましたが、やはり写真や言葉では伝わらない絶対的な“体験”の優位性がこの展覧会にはあると思っています。

私はこの展覧会をつくることで、想像以上にお客さまの反応から発見できることがたくさんあることに気付かされました。というのも、こんなに積極的に作品について議論する状況が生まれるとは正直思っていませんでした。風呂上がりにテラスに集まって来て体験者同士感想を述べ合い議論する…。そんな状況に驚きました。(期待はもちろんしていましたが…)

それはクマグスクが宿であり、一夜という時間を過ごす場所であることが大きく関係しています。

単純に、一泊の場合で滞在時間がおおよそ13〜15時間、その時間をかけて作品(展覧会)を咀嚼できるのですから、普通の展覧会とは違います。その時間に対応した展示であり、作品の見せ方があると思うのです。
クマグスクではこれから京都に場所を移して、新しい展覧会を模索するべく挑戦していきます。

kumagusuku※写真11 受付の様子(昼間は一般に開放していました)

小豆島編はこの回でひとまずお休みして(まだまだ紹介できていないことがありすぎます…)、次回からいよいよ工事も始まった京都クマグスクことKYOTO ART HOSTEL / kumagusukuについて、ご紹介していきたいと思っています。

今後ともどうぞよろしくお願いします!

ovaqe inc.