column

第二回「いづれ、翆点になる」

さて、連載第二回目になります。よろしくお願いします。
今回は前回紹介できなかった小豆島のことについて書きたいと思います。

去年の5月から11月まで僕は小豆島にいました。約半年間です。こんな長い期間、家から離れて生活するなんて初めてで、島暮らしも初めて、そもそも小豆島に行くのも初めて、もちろん経営だって初めてという何から何まで初めてづくしの半年間でした。

今まで「アーティストです」と言って自分の作品を好き勝手つくっていればよかったのが、今回はそうじゃない、全くもってそれじゃダメな状況だったわけです。だって、今回は僕の作品を出品する展覧会じゃありませんから…。(誰かの企画に乗っかるのとは訳が違う)まあ、自分の作品を展示するほうがどれだけ気が楽かということを嫌というほど思い知るわけです。自分で始めたことなので自業自得なんですが、とにかく手探りで頑張りました。

ただ、初めてにしては舞台が大きい…。知らないうちに話がだんだん大きくなってまして…、笑。
だって瀬戸芸ですよ、あの瀬戸芸。
瀬戸内国際芸術祭!
2010年には観客として直島や豊島をまわりましたが、国内外から多数の有名アーティストが集う現代美術の大舞台です。

concept瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島醤の郷+坂手港プロジェクト観光から関係へ

誤解が無いように少し説明します。kumagusukuは小豆島の坂手という町で、瀬戸内国際芸術祭2013の夏会期と秋会期の期間中に自主参加というかたちで行いました。自主参加ということは正式な出品作家というわけではありません。もちろん公式ガイドブックには載っていないので、いくら公式のHPを探してもkumagusukuの名前はでてきません。
でも、幸いな事に小豆島の「醤の郷+坂手港プロジェクト」には入れてもらう事ができました。なので、坂手港周辺ではちゃんと出品作家として扱っていただいておりました、笑。
本当にありがたいことです。「瀬戸芸には参加してないけど、醤の郷+坂手港プロジェクトには参加してる」状態はなんだか不思議な感じでしたが、それはある意味とても自由だとも言えるわけで、それはそれで貴重な体験ができたように思います。

そんなわけで僕は小豆島にやってきました!

実は、小豆島には僕だけでなく力強い仲間が同行してくれていました。
彼の名は井上大輔。

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(左が私、右が井上) 撮影:濱田英明

彼も僕と同じでアーティストをしています。ちなみに同い年。1980年生まれです。
彼と出会ったのは随分前で僕らがまだ高校3年生の頃、大阪の中之島にある美術予備校で一緒だったのです。お互い一浪して別々の大学に進学しました。大学の2回生の頃、僕が友人らと一緒に撮った青春映画に役者として出演してもらったのを覚えています。学部の4年間を終え、僕は卒業して京都を拠点にアーティスト活動を開始、彼は金沢の大学院に進学して…というふうにお互い別の場所で活動するようになり、会うのは年末年始に予備校仲間で集まる時くらいになっていました。

そんな関係が10年くらい続いたある日、彼から突然の連絡。
それが2012年の春あたりだったと思います。その連絡というのは、「日本とフランスのアーティストの交流展をやるから出品してくれないか?」というものでした。ちょうどその時、僕は海外での活動も視野に入れつつ、今後の活動についてどうしていくか悩んでいました。フランスで展覧会すれば何かのきっかけになるかな、との期待もあって出品する方向で話を進めていました。

でも、結局、補助金や助成金がとれずその企画は頓挫…、残念ながら実現はしませんでした。しかし、それがきっかけで彼とは時々連絡をとるようになりました。話をしていると、彼も大学や専門学校で講師の仕事をしながら作品制作や展覧会をしつつも、現状に満足できずに新天地を求めているところでした。まさに僕と同じような悩みを抱えていました。

おそらく、僕らと同世代のアーティストで同じような問題意識を抱えている人は少なくないと思います。30代前半、大学を卒業して10年くらいでアーティストとしてのキャリアもそこそこ積んできた頃。発表の機会にはある程度恵まれているが、それが収入に繋がらず、気合いを入れた作品をつくり発表すればするほど貧乏になってゆく…。他の職業とは違い知名度と収入は反比例ということも珍しくありません。プライベートも、彼女と結婚して子供も欲しいけど、将来が不透明すぎて結婚に踏み出せない。貯金も無いのにこの先どうすりゃいいの??と頭を抱えます。そんなアーティストはだいたい常勤の講師職を得る為に動くか、就職(この場合は20代半ばか後半で決断するひとが多い)に踏み出す。もしくは、国や財団、大企業のグラントを得て海外逃亡(とりあえずキャリアアップ目指して問題は先送り)が王道です。

書いてて改めて思いましたが、皆さん、ギャンブラー並みにリスクを負ってアーティストやってます。信じられないほどバイタリティに溢れてます。こんな環境で10年続けている時点で凄過ぎます。
でも、今のままじゃダメだと思うんです。
もっとちゃんと報われないといけない。アーティスト自身がそこを自覚しないといけない。
誰かに任せるんじゃなくて自分から動き出さないと何も変わらない…。

小豆島の話をしていたはずが、すこし熱くなってしましました、、、笑。
そんなお互いのアーティストとしての現況もあって、彼も僕のアイデアに興味や可能性を見出してくれたのだと思います。

というわけで、2013年5月、矢津吉隆と井上大輔は小豆島に旅立ちました。

小豆島遠景
(小豆島、坂手の町)

そもそも、僕たち若手のアーティストによる新たな挑戦の場として、瀬戸内国際芸術祭が開かれる小豆島という場所は非常に魅力に溢れた場所です。椿昇さんや原田さん、多田さん(瀬戸内国際芸術祭2013「醤の郷+坂手港プロジェクト-観光から関係へ-」のディレクター)から聞く小豆島でつくる未来の話、それらに対する好奇心は僕らの背中を押してくれました。

しかし、訪れた小豆島は僕の思っていた『瀬戸芸の行われている島』とは少し違ったのです。

何が違うのか簡単に言わせてもらうと、”人”が違うのです。
前回訪れた2010年の瀬戸芸は良くも悪くも”アートの国際展”でした。作品を主体として見た時それは素晴らしい可能性を示してくれていたように感じました。しかし、そこに作品やアーティストの意図は見えても、地元の人々の顔は見えなかった。
小豆島ではそこがまず見えるのです。
“人”の顔がまず見える。
これが大きな違いでした。
ここでは地元のおじさんやおばさん達が、まず中心にズドンと座っているのです。
おじさん達が日夜問わず寄り集まって、若いデザイナーやアーティスト達と瀬戸芸についてあつく語っている。自分たちの島に訪れたこの契機を逃すまいという気概がバシバシ伝わってくる。原田さんや多田さんがそのなかで島の人達をあだ名で呼び、酒を飲み交わしながら常に笑っている。

「なんじゃこれは!?」と驚きました。

小豆島交流
(島のひと達との交流)

過去にも地方で行われるアートプロジェクトにはいくつか参加してきました。
でも、そのどことも違う状況が小豆島には生まれていたのです。しかも、さらに驚いたことはその場に町長がいること!町長がその飲み会の場にいて酒を飲みながら一緒に語らっているのです。
これこそ、今の日本に必要な政治の姿だと感じました。
塩田町長は前職では厚生労働省で社会保障のプロとして行政に携わってこられました。社会保障とアートという独自の観点は、とても新鮮なものであり芸術祭を考えるうえで非常に明確なテーマになっています。町長がそれを率先して掲げられていることに驚きました。

これは、単なる町おこし的なアートプロジェクトの在り方と一線を画するものです。

だからこそ、このクマグスクというプロジェクトがこの小豆島においてどのような役割を演じることができるのか?ということを考えざるを得ません。これはとてもプレッシャーになりました。でも、それはとても良い事であり大事な事です。

我々はアートを通じてこの場所に何を還元する事ができるのか?
そのことを常に考えていました。

さて、今回、クマグスクを開催した場所は観音寺というお寺です。坂手の町を見下ろす高台に位置する、小豆島八十八ヶ所霊場の三番札所にあたる町の精神的支柱です。そのお寺の本堂を抜けた奥手、もとは宿坊として使われていた建物を貸していただきました。言うまでもなく、お寺という場所はそこに住む人々にとって重要な場所です。

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(観音寺の門から境内を望む)撮影:増田好郎

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(クマグスク入口)撮影:増田好郎

まずは、イメージを伝えるために模型をつくって檀家のみなさまに見てもらいました。京都の僕のスタジオに余っていた木材を寄せ集めたクマグスク特製の1/20模型。
空間構成でお世話になった建築家dot architectsの家成さんからは「この模型は傑作だ!」とお褒めいただきました、笑。荒々しいアーティストっぽい模型に仕上がっています。

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(クマグスク模型) 撮影:濱田英明

模型をつくったことで「百聞は一見にしかず」とはまさに。模型を囲みながら大盛り上がりでした。

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(クマグスクの模型を囲んで) 撮影:濱田英明

こうやってクマグスクの小豆島での挑戦が始まりました。

「アーティストとして生きる事」、そして、その前に「人としてどう生きるか」を考えるきっかけとなったこのプロジェクト。これから数回を使って小豆島でのクマグスクについて書いていきたいと思います。

次回は出品作家の土屋信子さんとつくりあげた展覧会「Ace of heart vol. 7」についてです。
お楽しみに!

矢津吉隆

矢津吉隆 / Yoshitaka Yazu

美術家 / kumagusuku 代表

1980年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。京都を拠点に活動。立体作品から平面、3D立体映像を用いたインスタレーションまで、様々な媒体で「第六感と表象」を主題として作品を制作。第13回岡本太郎現代芸術賞入選。2013年、『kumagusuku』を起ち上げ、瀬戸内国際芸術祭 2013 の夏秋会期 に小豆島の醤の郷・坂手港プロジェクトに参加。同年、フランスブザンソンISBAでのAIRプログラムに参加し個展「La Vouivre」を開催。

http://www.yazuyoshitaka.com

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