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LINER NOTES vol.01 “スエロは洞窟で暮らすことにした”

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急に始めた新コラム「LINER NOTES」。
いつか大人になったらアルバムのライナーノーツとか書きたいなとか思ってたら、時代がそうとうデジデジして、その存在がなくなりかけていた…という悲しい時代の落し物。音楽に関する解説で「ライナーノーツ」と称されることが多いが、そんなもの関係なしに本、音楽、映画、ゲームあたりを個人的に”よかった!”と思えたものを紹介していきます。

年末に今年読んだ本をざっと見ていたら、やはりこれが良かった。
でも、読んでる人がすごい少ない!周りに読んでもらいたい人がたくさんいる。ので、ご紹介します。

「スエロは洞窟で暮らすことにした」
Mark Sundeen (原著), 吉田 奈緒子 (翻訳)

こんな人に読んでもらいたい。

・お金に興味がないと理由もなく思い込んでる人
・自分らしい生き方とかライフスタンス問うのが流行ってるけど、何一つ見つからなくで闇雲に焦ってる若者
・他人の意見・目線についつい怯えてしまう人

僕はとりあえず読書家というよりは、カバンに本が1冊入ってないと不安になる人で、その日はたまたま1冊読み終えて読むべき本がなかった@ジュンク堂。

棚を流して気になる本を手にとって、あらすじを見ては戻してを繰り返しているときにたまたま手に取った1冊。
3行くらいで説明すると…

10年以上、お金を稼がず、使わず、もらわず、社会と切り離れて生活してるというわけでもなく、ブログも更新し、社会にコミットしているスエロさんの生い立ちとこれまでの人生を第三者が書き連ねた1冊。

です。あ。二行でいけたわ。
ただの時代遅れのヒッピーもしくは進化系のネオヒッピー話とかではないことを先に伝えておきたい。
(そもそも読み始めはその偏見から僕も入っていた。)

そしてもう一つのポイントが自伝ではなく、さほど深い知り合いではない第三者が著者としてスエロの半生を書いていること。
(たいていの場合、著者本人の書籍は大げさな表現と正論化してしまうから)
著者はスエロ自身の存在を社会と自然の隔たりにたっている理解不能な存在として興味をかられていて、全てを肯定的に描いていない。そこがいい。
そして、スエロへの興味から得られた気づきが、ちょうど僕にとって頃合いのいい気づきとなっていた。なので本書の良し悪しは人によるのかもしれない。
(実際amazonの評価は、そのものが少ないが少ない評価も割れている)



自然と社会。その差分が大きな気づき。


大半が彼の半生を描いた文章になっている。
家族構成や、彼がいかにしてこういった生き方になったのかが描かれているが、わりとそれはおまけ的な脚色であって、スエロに眼差しを向けている本人が、社会という場に立ちながら、自然⇆社会という二つの世界を簡単に横断しているスエロを見て、多くの気づきを得ている。その記述がすべて良い。ぜーんぶ、なるほど。と腑に落ちる。

そして、彼自身の生き方を形成しているのが「宗教」という点も非常に興味深い。
僕ら日本人が無宗教ひゃっはーしてる間にも、宗教があったからこそ、気づくことが多いというのもあるんだなと、これは日本人だからこそ思うのかもしれないが、なるほどなぁと思わされる。

何より彼自身の思考の土台がいくつもの宗教を学んだのちに(僕の勝手な解釈ではあるが)それぞれの宗教の「良し悪し」を知った上で彼自身の信じる生き方を生み出している。だから、簡単に否定できるような生き方ではないことに読んでいて気づかされる。
そうでもない限り、自然と社会を横断することは多くの苦労を生み出してしまうから。それを彼は当たり前のように過ごしている。



貨幣経済から抜け出したことでわかる「お金」の存在


この本の中で書かれる「お金」にまつわる話のくだりは、あまりに僕も勉強になったので大学の講義でそのまま教えてる。「お金」というものは、子供の頃から身近にあって、気がつけばその価値は根底が何かもわからず、コインや紙に書かれている数字分の価値を僕らは信じている。

本書を読むと、「ん?あ、おれ何も「お金」のことしらない!」となるし、
むしろ「お金のことをちゃんと考えたことがない!」ということに気づかされる。
その点、スエロはすべての自分の選択を思考し、自分の考えで決めて、失敗もするし、傷つくこともあるけれど、そこから学び、間違ってない!と自分が信じることは貫き通している。それが社会で受け入れられなくてもだ。

たしかスエロはアメリカの広大な国立公園内の洞窟に住んでいる。
原始人みたいなイメージを抱くかもしれないが、見た目はそこらへんにいる人と変わりはない。服を着て、生活をしている。
国立公園の管理者が何度もスエロを追い出そうとしたが、スエロ自身、経済活動行っていないし、ゴミを生み出してるわけでもない、何より社会という仕組みからは外れたところで生きている。なので、そこらへんを歩くウサギやシカと変わらない。それでもスエロを国立公園から追い出すのか?追い出せるのか?

みんななら、これをどう解決するだろう。
僕は答えがわからなかった。スエロは定期的に街に出て(もらった自転車ですごい距離を移動する)
廃棄されるピザや飲み物を得て、図書館のパソコンで自分のブログを更新する。社会貢献活動にもコミットしてる。

日々、大量の食べ物を廃棄する世界がある一方。
まだ全然食べれるし、美味しいといって廃棄されたものを食べるスエロのような人。
どちらが正しいの?と言われると、本当に悩む。



まくまでも、これは「スエロの人生」。私たちのものではない。


スエロが自然と社会を行き来し、社会にコミットしながらも土台は自然にある。それを著者が目の当たりにして、僕らの価値観は大きく揺さぶられる。
スエロの生き方が正しい、かっこいい、と賞賛するのではなく、この本は「そういう生き方を貫いた一例」程度の扱いだ。
人にはそれぞれの理念がある。それを曲げずに貫く人と、適応していく人、それぞれだ。こういった人生があるということを知るだけでも読む価値がある。

スエロの生き方を見ているとどれだけ他人の目が無意味か痛感する。
そして、何が正しいかは人によって様々だということも。
答えは一つではない。ただ、その答えを正しいと言ってあげれるのは最終的には自分自身に他ならない。それをスエロは実証している。

スエロに共感した多くの人が彼の生活にステイするらしい。
それでも誰一人、彼と長く共にすることはできない。
結局、ほとんどの人が数週間で社会に戻っていく。
その正しさはスエロのものであって、誰か他の人もものではないのだ。
その人なりの正しさと行いがあり、それを見つけ出すことが僕らが生きていることの意味につながるのだろう。



お金は何だろう?


全編通して心にざわつきを残すのが「お金」に関する一連のことだ。
スエロの生き方、選び方、信じ方、これが良い例となって僕らが毎日使うお金に対して、
僕らがいかに無理解・無思考か気づかされる。
これはお金に無知でもお金に詳しくても一読の価値がある。お金の勉強ではなく哲学的なお金の話だ。
今、財布に入っているお金を見つめて、僕はしばらく考え込んでしまった。
が、お金に関する見方ががらっと変わった一冊となりました。
時間があるときに是非読んでみてください。

スエロは洞窟で暮らすことにした
スエロは洞窟で暮らすことにした マーク サンディーン Mark Sundeen

紀伊國屋書店 2014-03-06
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Subaru Matsukura

AUTHOR

松倉 早星(Subaru Matsukura)

ovaqe inc.代表 / CNTR編集長 / MNRVファシリテーター
1983年、北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。 東京・京都の制作会社にてプランナーとして在籍。
2011年12月ovaqe inc.設立。領域を横断した多数のプロジェクトに携わる。
http://ovq.jp/
http://subarumatsukura.com/

ovaqe inc.