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LINER NOTES vol.02 “1/11 じゅういちぶんのいち”

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忘れた頃にまた書く!これむっちゃ良いで!を書くコラム”LINER NOTES”。
1回目は昨年読んだ1冊をオススメしましたが、今回はつい先日読んだ「漫画」です。
最近だと「弱虫ペダル」が人気ですね。毎週、アニメ版見て涙腺崩壊ギリギリです。
コミック全部読んでるから先の展開知ってるんだけど泣ける。

今回、紹介する漫画は「サッカー漫画」です。
あらゆるスポーツコミックの中で一番使い古されたジャンルである、サッカー漫画。
正直、噂では「素晴らしい!」と聞いてはいたものの、どうせスポ根漫画でしょ?とスルーしていました。

ひょんなことから1話読む機会があって、「あ、これスポーツ漫画じゃなくて、人間交差点ゾーンだ」と気づき全巻購入即日読破。
その「1/11 じゅういちぶんのいち」の何が良くて、新しいのかを今回は語ります。

「1/11 じゅういちぶんのいち」
中村尚儁 (著)




物語を見る視点


最初に驚いたのが、大抵のスポーツ漫画は主人公視点の課題乗り越えを繰り返す大文脈をとるのに対して、
この漫画は主人公といえる人物は存在するが、常に主役が変わる。
なんなら時々、サッカーがなくてもいいんじゃないか!?という話すらある。
ただ、登場する各話ごとの主人公たちは、サッカーを中心に過去も未来も繋がりがある。
あ、このシーンのとき、あいつはそれを遠くから見ていたのか!と驚くことも。

この漫画を構成する土台として、オムニバス形式が取られた時点で
今目の前に立ちふさがる強豪や1試合における濃密なスポーツの描写は捨て去っている。
その時点で他のスポーツ漫画とは別の路線を走っている。スラムダンクは何冊分この試合に使うのか!?
弱虫ペダルは未だあのレースをゴールしてないのか!と思わせるほどの緻密さで
レースの長さを忘れさせる魅力があるが、その真逆を攻めている。

各話ごと、サッカーにはもちろん触れているものの
サッカーの魅力を語るというよりも、サッカーが与えてくれるものにフォーカスがあたる。
そして、この漫画の構成を表しているのが「1/11 じゅういちぶんのいち」というタイトルにある。
サッカーはボールをもっていないときの動きが大切になる。
ゴールを決めた人、アシストをした人にフォーカスがあたるが、
それを実現するスペースを生み出すプレイがなければ、ゴールもアシストも生まれない。

つまり、この漫画は普段僕らが向ける視点以外の場所で起きる出来事の重要性を問うている。
それがこの漫画のタイトルになっている1/11という意味合いになっている。
そもそも構造として、サッカーや主人公を見つめる読者の眼差しのポジションが設計されていることに驚く。




話の主題はスポーツではなく、向き合うマインド


うわーすごい。と驚かされるのが、サッカーについて事細かに魅力を伝えるのではなく、
サッカー的スポーツマンシップであらゆることに向き合う事例が各話に落とし込まれている。
しかも、それが無理のない構成だったり、涙腺ボコボコにされるような物語だったりする。

サッカーと向き合う姿勢がそのまま、生きる姿勢へと繋がっていて、
各話の主人公たちは生きる上での学びを得て、成長する。
決して劇的にサッカーが上手くなるわけでも、チームが圧勝するでもない。
人としての成長がサッカーを通じてもたらされる。

なので、サッカー漫画でありながら、
サッカーを知らなくてものめり込むだけの魅力が本作には満ち満ちている。

なので土台がそもそもスポーツ漫画ではない。
サッカーを中心とした人生の話だったりする。
ゴールキーパーが吹っ飛ぶようなシュートも打たなければ
光の速さのパスを回すようなことはない。
なんならライバルとかも出てこない。向き合うのは常に自分自身という設計がなされているから。




読者に何を追わせるのか?


どんな漫画でも小説でも、読者に追いかけさせたい物語があるはずだと思っていた。
なのにこの漫画といえば、オムニバス形式だし、各話主人公違うし、
時代も飛び越えるし、手に汗握る試合もない。
ただ粛々とサッカーに関わる人間模様が描かれる。
そして一話読み終えるごとに、うわぁいい話すぎる。という感動の置き土産だ。

それが9巻ほど続く。
なんの試合の変化も、成長を目の当たりにするわけでも、
必殺技を覚えるわけでもない物語を9巻読破させるのは「いい話」だからできるわけではない。

オムニバス形式を取ることで各話に登場する人間のいく末が気になる。
そして、読み進めていくと、過去に登場した人物が大人になって出てきていたり、
過去の話で人として前向きに生きる姿勢を正した人の未来が交差するシーンが多々ある。
誰も彼もが他人ではなく、ゆるやかにしっかりとつながりあっていて、
語られずとも過去登場した人物は同じ時間軸の中で成長を遂げている。

この構成と、各話の秀逸な物語設計のおかげて、
語られることのない各登場人物の過ごしたであろう人生を
想像させる余白と魅力がそこにある。

これは計算してなのか、物語を収束させるためなのか、
後半になるにつれて、その頻度は増し、過去において正しいと思われた行為が丁寧に結実していく。

殺人事件のトリックや、驚きの物語の展開を考えることも十二分に才能のいる作業だが、
この作品を読んで、丁寧なプロットや、決しておざなりにしない作者の態度を感じざるを得ない。
結果、私たち読者はサッカーというスポーツを中心軸においた、
人々の人生を追いかけていること気づく。




ヒーロー不在がもたらすもの


主人公と言える人物が登場する。
1話にまだ子供だった主人公は、ときどき話に登場し、最終的には孫の代まで話が続く。
主人公はすごい才能のある選手ではない。ただ一つ、チーム全体を考えれる思考をもっている。
その思考が彼の生き方に直結し、彼に触れ合う人々の人生を変えていく。

話が急に変わるが、妖怪ウォッチの主人公のキャラ設定の話を思い出した。
主人公ケータも特別な力もなく、性格も普通。主張もあまりしない。
でも、そういったキャラ設定が受け入れられている。

この主人公はもっとひどくて、最初は一人プレーしかしない。
でも、サッカーを通じた出会いでチーム全体を考える思考を獲得する。
そこから先は、プレイヤーとして突出した才能を手に入れるわけではない。
そのままの状態でプレイヤーとして淡々と成長を経ていく。

僕世代が読んでるスポーツ漫画は必ず、その人にしかない凄い技や才能がある。
それが凝縮してるのが、弱虫ペダルであるし、スラムダンクである。
引き篭もりでも実は凄い弱虫ペダル。不良でもリバウンド王になるスラムダンク。
もう大人だから、そういう憧れはないが、子どもの頃憧れては「あぁ、漫画なんだ…」という落胆がない。
(カメハメ波でなかったり、武空術使えなかったりで落胆したよね)

生まれ持った才能は読者をある点において落胆させ、
生まれ持たずに生きている上で獲得した物事は、希望を持てる。
最近の高く評価されるコンテンツは、登場人物にこういった特徴があるように感じる。
あなたにはあなたの才能があります、から、
あなたの考え方次第、行動次第で、なれるものがあります。
という語り方に変わってきている気がする。

ヒーローでないことで失うダイナミズムももちろんある。
ただ、ヒーローを捨てたことで得られる対話というものもある。
本作はそれを体現した内容ではないかと僕は思う。




主人公不在の物語


もう話が全然それるし、まとめにもならないが
先日のR-1グランプリをぼんやり見ていると「マツモトクラブ」という芸人がいた。
どうにかして見てもらいたいんだが、この芸人も主人公不在のお笑いを展開する。

一言くらいしかしゃべらずに録音した決め音だけでコントをする。
彼はしゃべらないから、主役感がない。演じるのも脇役的な人物だ。
しかし、コントとしては彼を中心に展開される。主人公への視点ではなく、脇役への視点。

あたりまえなこというなと思うかもしれないが、
世の中のコンテンツの大多数は、主人公へフォーカスが向く。
それが普通であるがゆえにフォーカスが脇役にあたったコンテンツ設計は、
出来ることがまだまだ溢れている気が最近している。

お笑いでたとえ続けて恐縮だが、
笑い飯やジャルジャルがダブルボケで話題になったように
漫画のフォームにも面白い構成が出てきたなぁと。
厳密にいうと人間交差点モデルであるが、単話完結ではなく、単話がゆるやかにつながっている点も全体を俯瞰してみてほしい。学びが多い。

無理やりまとめると、
書店の変な啓蒙本を買うくらいなら、この漫画を大人買いしとけ!ということだ。
人生暗くなってきた人は、読むことをオススメする。
人生明るくて大丈夫!という人は、これを読むことで自分だけじゃない他者へ良いギフトを与えれる気がする。

1/11じゅういちぶんのいち 1 (ジャンプコミックス)
1/11じゅういちぶんのいち 1 (ジャンプコミックス) 中村 尚儁

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Subaru Matsukura

AUTHOR

松倉 早星(Subaru Matsukura)

ovaqe inc.代表 / CNTR編集長 / MNRVファシリテーター
1983年、北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。 東京・京都の制作会社にてプランナーとして在籍。
2011年12月ovaqe inc.設立。領域を横断した多数のプロジェクトに携わる。
http://ovq.jp/
http://subarumatsukura.com/

ovaqe inc.