issue

心地良い まち ~まちとアート編~ 此花 vol.1 #01

konohana_nashitop_1

大阪市此花区。一方を海に面し、両側を川に挟まれるという地理的要素をもつこの地区は、それゆえに他の地区とは少し違った独特な雰囲気を漂わせています。なんとなく夕方の時間が似合うような、銭湯のけむりが見えるような、そんなノスタルジックなまち。

いま、そんな此花がアート界で話題になっているのを皆さんご存じでしょうか?

もともと、若者やオルタナティブ系のアーティストが集い、活動しているまちとして知られ、様々なスペースが運営されたり、「見っけ!このはな」というまちなかイベントが開催されていたりしていましたが、最近ではそれに加えて、新しいギャラリーや施設のオープン、勉強会のスタートなどが続き、新たな動きも見せ始めています。まさに、まち全体が様々なところで少しずつ動きを見せている場所なんですね。

アートやクリエイティブ、まちと暮らしの心地良い関係性とは何なのかを探る、この特集。
第1弾の第1回目は、此花における新しい動きの中で、まさにその一角となっている、コマーシャルギャラリー「the three konohana」の代表、山中 俊広さんへのインタビューから始めたいと思います。


山中 俊広 [ the three konohana : http://thethree.net/  ]
インタビュー:宮城貴子(CNTR)/ 岡村綾子(CNTR)
撮影:岡村綾子(CNTR) 写真提供:the three konohana

>> 心地良い まち ~まちとアート編~ 此花vol.1 #01
>> 心地良い まち ~まちとアート編~ 此花vol.1 #02

 


 

「此花」と「the three konohana」

 

ーギャラリーのオープン、おめでとうございます。今回、ギャラリーを新しく構えるにあたってなぜ此花を選ばれたのか、お聞きしていいですか。

山中:主に2つあるんですが、まずは「此花とギャラリーのギャップ」です。僕は大阪生まれで大阪のことも好きなので、自然と大阪でやりたいっていう気持ちが最初からありました。でも、西天満や本町、肥後橋など、すでにギャラリーが密集してる地域で新しいことを始めたとしても、たぶん一気に注目を集めることはできないだろうなと思っていたんですね。すでにまちのイメージが出来上がっている地域なので。

ーたしかに、うもれちゃう感じがしますね。

山中:そうなんですよね。でも、そういう状況でどこがあるかなって思ったときに、此花はいいんじゃないかと。保守的な地域でもないし、現代美術のギャラリー関係者のなかで、此花の存在を知っている人はあまり多くなかったのです。今まで、梅香堂さん一軒しかなかったのでね。まだそういう、ギャラリー密集地だというイメージがないまちで、コマーシャルギャラリーを運営する。その「此花とギャラリー」の意外な関係性、ギャップみたいなところも含めて、ギャラリーがあるというイメージをこのまちにつくることが面白いのではと思って、ここにオープンを決めました。実際に、うちがオープンしたのを機にこの地域の動きを知ったという人が、思った以上に多かったです。

あともう一つは、この地区の「人の面白さ」。美術の関係者でここを知っている人は少ないと言いましたが、逆に、オルタナティブ系の人、建築デザイン系の人、舞台や音楽の人などはすでに此花を知っていて、集まっていたんですね。なので、この様々なジャンルの人がいるなかに、現代美術のコマーシャルギャラリーという、今までは内に閉じこもりがちで、なかなか一般的に普及が難しいと言われてきたジャンルが加わることで、此花だけではなく業界的にも面白い化学反応や展開がつくれるのでは、と思いました。

 

 

あと、まだまだ出てきますが(笑)、年代でいうと、此花に今いる人で活発に動いている人って30代~40歳前後の人が多くて、実はそれほど若くないんです(笑)。きっとこれまで失敗も経験した人たちが、この此花というローカルなまちに惹かれて、何か新しいことをやろうと活動している状況も魅力的でした。次にまたなにかそういう問題にぶち当たっても、そこを乗り越えられる力がきっとある世代。そういう世代構成も面白いですね。

ーほんとに凄くたくさん魅力が出てきますね…!(笑)そういう「此花」に「面白さ」を感じてやってきた人がまた「面白さ」をつくって連鎖していく。

山中:そうですね。

ーでは、そんな流れができつつあったなかで、よし、もっと盛り上げてやろうぜ!みたいな感覚で、今されているような新しい動きや、一体感みたいなものが出てきた感じなのでしょうか?

山中:それはちょっと違うかな。これもまた色々な人に聞いてもらったらわかりますが、決して一体感はないんです。むしろ一体感はあまり持たないようにしようっていう方が強いと思います。特に辺口さんや溝辺さん(※1)は同じ考えだと思います。基本的には自分たちの好きなことをやっていて、あとは社会常識としてのモラルとマナーを守っているだけ。
(※1:此花にある黒目画廊のオーナー。次回のインタビューに登場して頂く予定です)

ーというと、そういう自然なあり方だからこそ、今のような状態になっている?

山中:そうですね、かなり自然発生的じゃないかなと思います。たぶん僕も、他の人もそうですけど、「まちのために」「此花の為に」っていう意識が第一ではないと思うんですよ。まずは自分の好きなことをする。その延長線上で、でも実際に自分たちが守られ、心の支えとなっているこのまちに、なにを還元したらいいのかっていう流れで考えている。そこで、皆がそれぞれに違う手法をとっているという感じじゃないでしょうか。

 


まちづくりをしている訳じゃない

ーそこはこのインタビューのテーマでもある、アートと暮らしの関係性の部分にも関わると思うのですが、「まち」や「くらし」のことを考えておこなう、いわゆるまちづくりのようなものとは全然違う形式でここまで来られている、ということでしょうか?

山中:そうですね、ほんとに全然違うんじゃないかな。僕はまだ此花に入ったばっかりなのであまり断言できないですし、もちろんそうじゃない人もいるとは思うんですけど。 例えば僕の例だと、ギャラリーがまちのためになにか直接的に貢献するとなると、まちの人向けのワークショップを定期的に開催したりだとか、そういうことになっていくと思うんですね。でも、僕はワークショップの専門家ではないので、プロの仕事としてはできない。僕が元々ここでやりたいこととも違いますしね。ここは、「現代の日本の美術とはなんぞや」っていうのを追求する場としてありたいと思っているので、あくまでも純粋に、美術としていい展覧会をどんどんつくっていきたい。それを全国に発信していくことで、まず此花を知らなかった現代美術に興味のある人に、ここに来てもらいたいんです。そして、ここでの展示を満喫してもらったあとに、この辺おもしろいですよって、まちへ誘導する。近所には他のスペースや施設がいろいろあるし、まち並みをみるだけでも面白いから、ぜひお帰りの際はブラブラしていってくださいって言っています。

ーそれが、山中さんのまちへの還元の仕方っていうことでしょうか?

山中:そうですね。そうやって、あくまでも外の人をひっぱってくるっていうのが僕の現実的な役割だと思っています。地元の人に作品を買ってくれっていうのは、やはりなかなか難しいですから(笑)。そこから、モトタバコヤさんだったり、黒目画廊さんだったりが、そのお客さんたちをもっとコアな此花のファンにしていく。それで、みんなに「此花面白い」と実感して帰ってもらったら、あとは口コミで広げてくれる、という流れができれば、それが一番理想的な還元方法かなと思っています。

ーそれは新鮮です…。もちろん、アートだけで地域を活性化できるということではないとも思うのですが、芸術祭などを行っている地域は別として、こういった「まち」で地域活性を図っているイベントは、地元の方に向けたものが多い気がしていたので。地元の方に知ってもらおうとか、関わってもらおうという動き方ではないという感じなんですね。

山中:そう、なので外から少しずつ人が入ってきて、いい意味で賑やかになっていくという形で、地元の方にとって嬉しいことをしていきたい。たぶんそれは、地元の方にとっても明らかに少しでも刺激になるだろうと思うんです。僕たちがやっていることを地元の人に押し付けることは良くないので、地元の方があくまでも自然に、僕たちが何をそれぞれやっているかを知っていく。それが地元の方々への刺激になれば、地元の方々も自発的に何らかのアクションを起こしていく。もちろんそれは大きなことじゃなく、自分たちが出来る範囲で。共に自然であるべきだと思います。


「まち」と共存していく

ー実際に此花に初めて来た方って、どういう感想をもって帰られるんですか?

山中:このまち並みにびっくりされていますね。好印象率でいうと、ほぼ10割に近いんじゃないかな。ほぼみなさんが面白いと言ってくれますね。ここで最初の展覧会をしてくれた作家の伊吹さんがいい表現をしてくれたんですが、「いまだに昭和が続いているまち」と。これだけ下町なところって、なかなか大阪でも少ないんですよね。ここにしても、モトタバコヤさんとかもそうですが、POSさんとNO ARCHTECTSさんがコラボで設計・施工をしています。両者は、もともとある昭和のよきものを残しながら、新しいものを共存させるという意識で此花の空き家のリノベーションに取り組んでいる建築家たちなので。ここも、玄関はほぼ当時のままだけど、でも中に入ると完全なホワイトキューブ。でもさらに奥に入ると、また昭和のスペースが出てくるという、タイムスリップが何回でもできてしまうような、不思議な空間なんです。

ーなるほど。そういうリズムがある感じがとても居心地いいなって思っていました。

山中:そうなんです。過去も現在も両方押し付けないっていうのがいいでしょう?

ーそういうのが、本来のまちづくりなのかなっていう気がしますね。

山中:そう、でも現場の人は、そんなに「まちづくりしよう!」だなんて思ってないっていうね(笑)

 

>> 心地良い まち ~まちとアート編~ 此花vol.1 #02 につづく

Takako Urabe

AUTHOR

占部 貴子(Takako Urabe)

1987年、岡山生まれ。大阪芸術大学芸術計画学科卒業。
駅ナカのコミュニティスペース、アートエリアB1に管理運営スタッフとして在籍後、現在は学童保育指導員として勤務しながら、子どもとアートの関わり方について考え中。
文化住宅を利用した様々な活用方法の提案と実践を行う「前田文化」メンバー。

ovaqe inc.