活版印刷のススメ ー江戸堀印刷所体験レポートー vol.1

活版印刷のススメ ー江戸堀印刷所体験レポートー vol.1
DATE : 2012/07/25 / TAG : 江戸堀印刷所, 活版印刷 / AUTHOR : Takako Urabe

みなさん、「活版印刷」をご存じですか?

活版印刷とは、鉛でできた「活字」の出っ張っている部分にインクをのせ、紙に転写することで印刷する技術のこと。その起源は、一般的には15世紀のドイツとされていますが、実は日本でも鉛ではなく木を使用した活版印刷物があり、それが最古であるとも言われています。

しかし、今は大量の物を大量に刷る時代。手間や時間がかかる活版印刷よりも、一度ゴムに転写したものを紙に印刷するオフセット印刷が主流となっています。直接紙と版が触れあわず摩擦を少なくできるので、精密で大量印刷が可能となっているのですね。それに伴って、活版印刷を専門で手がける印刷所や、活字をつくる工場なども次々と閉業していまっているのが現状です。

そんな中、若手のデザイナーの中で活版印刷が注目を浴びだしました。理由は、オフセット印刷では出ることのない、文字がへこむことによって生み出される「質感」。アナログな手法で写し出される文字は、どこか暖かみを持っているような気もします。私たちもその魅力にとりつかれ、「CNTRの名刺も活版印刷でつくろう!」ということに。

そこで今回、大阪の江戸堀に居を構える「江戸堀印刷所」さんにお願いして名刺をつくって頂きました。実際の印刷の課程を見せて頂きながら、活版印刷の魅力をお聞きしてきましたので、その様子とともにご紹介いたします。

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活版印刷屋としてはまだまだ新人です

 
ー江戸堀印刷所さんは、どういう風に始められたんでしょうか?
 
ここは、本社(あさひ高速印刷)がもともと持っていたところに、一つの別事業としてオープンさせた印刷所なんです。代表がこういう活版印刷のものをやりたいと、4~5年前から構想して、去年始めましたね。まだ活版印刷所としては新人です。
 
ーそうなんですか。活版印刷って古いっていうイメージもあると思うんですけど。。
 
そうですね、今はオフセットも活版印刷もやろう、っていうところはほとんどないですね。活版印刷専門のところは、それを残していこうっていう活動をされてるところはあります。最近は活版に興味のあるお客さんも増えているみたいなので。
 
ー稼働は常にしてるんですか?
 
いや、印刷機は動いていないときもありますね。そういうときは本社の別の印刷機をまわしていて、兼務という形をとっています。
 
 
 
ーこの活版の機械は元々お持ちだったんですか?
 
この印刷機は持ってなかったんです。もう製造もされていないので、中古を専門で扱っている業者さんにいいのが出たら教えてほしいってお願いしていたんです。これはそこで見つけてもらって、オーバーホールをして使えるようになったんです。
 
ーじゃあメンテナンスとか、修理とか大変なんじゃないですか?
 
部品がもし壊れてしまったら、他のもう壊れてしまった機械から取ってきたもので代用します。メンテナンスは教えてもらったので、簡単なものなら大丈夫です。ちなみに、ハイデルベルグ社っていうドイツの老舗の印刷機なんです。
 
 
 
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そのようにして始まったこの江戸堀印刷所さん。まず、そのオープンな外観が人目につきます。とても印刷所とは思えないような、お洒落でシンプルなつくりのお店。
 
 

 印刷の課程を実際に見てもらえるような場所に

 
 ーここにお邪魔するとき、もっと工場っぽいのかなと思ったんですが、とても開放的で気持ちいいところですね。
 
そう、ショールーム的な感じで、みなさんに気安く入ってもらえるようにと思って内装を考えたんです。なので壁もつくらず、全面ガラス張りなんです。
 
ー機械がとてもよく見えるから、動いてたら見てるだけで楽しそうですね。
 
小さい子とかもガラスにべったり張り付いてみてくれたりしてますね。お母さんに触ったらだめ!って怒られたりしていて(笑)
 
ーオンデマンドで印刷を頼むと確かに早いし安いんですが、こうやって実際に印刷しているところ見えたりしないので、こうやって人が実際に見える印刷所、ってとてもいいと思います。活版ならではという感じで。
 
そうそう、今ってネットでデータを送ると、その次の日にはできあがるという感じだけど、その間の課程が全く見えない。それも味気ないなって思うんです。そういう課程を、印刷のことを知らない人にも分かってもらえたらと。小さい印刷機だからこそ、立ち会いにもどんどん来ていただきたいと思ってますから。位置決めやへこみ具合とかも、その場で見てもらいながらできますよ。
 
 
 
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そういった、活版印刷ならではを活かしたお店づくりをされている江戸堀印刷さん。新しい活版印刷所だからこそできることを、次々と打ち出していらっしゃいます。
 
 

活版印刷のかたちにとらわれない

 
ー活版印刷を始めて、こういうのやっちゃうのみたいなびっくりした案件てありますか?
 
もう、活版は最初にやったものからずっとびっくりしてるんですが(笑)僕はずっとオフセットをやっていたので、紙の上にインクを乗せるだけなんですけど、活版印刷だと立体感を求められる。僕らからするとそんなの絶対いいことじゃないって思ってる訳なんです。ただ、お客さんの希望としてはもっと圧を効かせてっていうんですよね。それとか、印刷物に一枚一枚ムラをつくってほしいって言われることもあります。普通は印刷ってムラができたらだめなんです、当たり前ですよね。なのに、それをわざとムラをつくってくださいって言われたのはびっくりしましたね。
 
ー今は当たり前の印刷を求められてない状態っていうことなんですね?
 
そう、もともと本来の活版印刷も、へこまさないでできた方が技術が高いということなので、昔からの職人さんに「もっとへこませて」とか言ったら理解できないと思いますね。
 
ーそれこそ、新しくされてるからできるってことですよね。今インターネットの仕事とかばっかりやってるんですけど、逆に質感とか暖かみとか出るのがとてもいいなあと思ってて。印刷業界の中でも、そういう「やっぱり逆にいいんじゃないか」みたいな感覚はあったりしないんですか?
 
たぶん、デザイナーさん関係はそういう感覚は持ってはると思うんですけど、ただ現場にいる人間はあんまりそういう感覚はないですね。本社で受けているオフセットのお客さんも、そういうのないですね。
 
ーデザイナーさんが来られることってやっぱり多いんですか?
 
多いですね。わりと近所の方がよく来られます。最近引っ越してきたとか、事務所個々に構えました、という方もよく来られます。そんな方たちの繋がりで宣伝してもらってますね、有り難いです。
 

 

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江戸堀印刷所さんのあたたかな雰囲気、伝わりましたでしょうか?次回は、実際にCNTRの名刺をつくって頂いた課程をお見せしたいと思います。お楽しみに。

 

写真:前田健治(CNTR / MÉM)

 

AUTHOR

占部 貴子(Takako Urabe)

1987年、岡山生まれ。大阪芸術大学芸術計画学科卒業。
駅ナカのコミュニティスペース、アートエリアB1に管理運営スタッフとして在籍後、現在は学童保育指導員として勤務しながら、子どもとアートの関わり方について考え中。
文化住宅を利用した様々な活用方法の提案と実践を行う「前田文化」メンバー。